最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)77号 判決 1966年11月18日
上告人
小原日出
右訴訟代理人
松藤英吉
被上告人
信栄金融株式会社
右代表者
末松次郎
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人松藤英吉の上告理由第一点について。
上告人所有の本件不動産につき原判示のような根抵当権設定登記のなされた経緯についての原審の事実認定は、原判決挙示の証拠に照らして是認することができる。原判決が、右認定事実に基づき、訴外富安治人が上告人の代理人名義で被上告人との間で締結した本件根抵当権設定契約は、民法一一〇条の適用により、上告人に対しその効力を及ぼすものであると判断したのは、正当であつて、所論の違法はない。所論は、原審の認定しない事実に基づき、独自の見解に立脚して、原判決を非難するものであつて、採用できない。
同第二点について、
偽造文書による登記申請は不適法であり(不動産登記法二六条、三五条一項五号)、公法上の行為である登記申請行為自体に表見代理に関する民法の規定の適用のないことは、所論のとおりである。しかしながら、偽造文書による登記申請が受理されて登記を経由した場合に、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者においてその登記を拒みうる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無効を主張することができないものと解するのが相当である。
本件についてこれをみるに、原判決は、本件根抵当権設定登記は訴外富安治人の偽造にかかる申請書に基づきなされたものであるが、右根抵当権設定契約は、前述のとおり、表見代理の法理の適用により、上告人に対し有効であり、原審の確定した事実関係のもとでは、被上告人の代理人である訴外福山茂において右富安が上告人を代理して前記登記申請をする権限を有するものと信ずるにつき正当の事由があつた旨判示している。原審の右判断は、前記説示に照らして、正当である。してみると、上告人は被上告人に対し、本件根抵当権設定登記の無効を主張してその抹消を請求することはできないものといわなければならない。従つて、結局において右と同趣旨の原判決は正当であつて、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)